タネの話あれこれ。

めずらしく一般紙にまじめな記事があがっていたのでクリップ。

最後には野口種苗さんもちらりと。

「【食再発見 変化のかたち】伝統野菜 消えゆく本物の味 」

http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200808130029a.nwc

■「F1品種」全盛に危機感

収穫日は北陸には珍しい快晴だった。福井県勝山市、かつて「暴れ川」と恐れられた九頭竜川沿いの砂地にある数十メートル四方の畑で、中村富枝さん(72)の剪定(せんてい)ばさみが小気味良い音を立てていた。色鮮やかな「妙金ナス」がかごに盛られていく。

 この地で明治時代から代々受け継がれてきた伝統野菜だ。数年前に夫に先立たれ、中村さんが1人で畑を守り続けている。

 「一緒に作ってきたナスだから、絶やすのは何だか申し訳なくて。今年は色つや良くできたけど、夫が作っていたナスには及ばないね」

 妙金ナスは丸ナスの一種で、京野菜として有名な賀茂ナスの“先祖”ともいわれる。引き締まった実のこりこりとした食感が楽しめ、煮くずれしにくいことから、地元では根強い人気がある。

 しかし京野菜などブランド化に成功したものは別として、全国各地にある名もない伝統野菜は農家から敬遠され、姿を消しつつあるという。

 ◆いいとこどり

 いまや野菜の主流は「F1品種(一代雑種)」。例えば、収穫量の多い品種と成長の早い品種を掛け合わせ、2つの特徴を併せ持つ新種を作り出す。品質や形をそろえることも可能になった。

 見栄えのいい野菜を数多く並べたいスーパーなどには、うってつけの品種だ。ただし、いいとこどりした特徴は1代限り。農家は収穫のたびに種を買う。それでも、種づくりの手間は省ける。

 中村さんの畑には190株の苗が植えられているが、10株前後を収穫せずに残し、種を採るため熟させる。F1なら、収穫後すぐに別の野菜を栽培することもできる。

 「伝統野菜はF1と違い手間がかかるし、収穫量も少ない。利益を考えていたら、とてもやっていけない」と中村さん。妙金ナスの生産農家は近所に数軒あるだけだ。

 「味の良いものを使っているから、焼き方には気を配ろうな」。福井市のフランス料理店「ジャルダン」の厨房(ちゅうぼう)では、総料理長の黒味傳(くろみ・つたえ)さん(67)が妙金ナスをいためる若い料理人を熱心に指導していた。黒味さんは数年前から伝統野菜を使ったフレンチに取り組んでいる。

 その日は、中村さんが収穫した妙金ナスを添えたフォアグラのソテーを結婚式の披露宴に出した。

 福井県の司厨士(しちゅうし)協会も最近、伝統野菜を使った料理コンテストを開催するようになった。

 松江市に生まれ、横浜や東京、大阪の一流レストランを渡り歩いてきた黒味さん。「伝統野菜を使うのは、この土地の味をお客さんに知ってもらいたいから。頑張っている生産農家を支えたい気持ちもある」と話す。

 米国産のトウモロコシ、中国産のトマト…。福井市内のホームセンターの棚には、野菜の種袋がずらりと並ぶ。生産地はインドやフィリピン、タイと、ほとんどが海外産のF1品種の種だ。

 ◆種による農業支配

 農林水産省によると、1997年度に86%だった日本の野菜自給率は、2006年度に79%まで低下。種の自給率となると、記録が残っている1998年度は14・07%で、その後、下がり続けているとみられる。

 世界中の種は、米国やドイツ、フランスの多国籍企業などによる寡占化が進んでいるとされ「種による農業支配」もささやかれる。

 日本種苗協会の加盟社は10年前、約1900社。しかし経営難などから廃業や倒産が相次ぎ、今年4月には約1400社にまで減少した。

 種の国際事情に詳しい京大准教授の久野秀二(しゅうじ)さん(40)は「トウモロコシや大豆の種子については、多国籍企業が既に知的所有権保有している。野菜についても将来、同様の事態が懸念される」と指摘する。

 埼玉県飯能市の山奥の段々畑。春の日差しに黄色いカブの花がまぶしいほどに輝く。「どうですか。悪くない眺めでしょう」。市内で野口種苗研究所を経営する野口勲さん(64)が目を細める。

 1929年から続く種苗店の3代目。漫画界の巨匠、故手塚治虫の編集者を経て家業を継いだ。段々畑では、父親から受け継いだ伝統野菜「みやま小かぶ」が育つ。

 父親の代には年間1000リットル以上の種を出荷したこともあったが、今は10リットル程度になってしまった。

 「今は、伝統野菜のような個性の強い味は嫌われる。くせのない味や形ばかりが評価される時代になった」と野口さん。伝統野菜が消えていくことに危機感を覚えている。

 「種は、手塚先生の『火の鳥』のようなもの。転生を繰り返し受け継がれてきた命そのもの。命の循環を断ち切らず、伝統野菜の本物の味を次世代に残していきたい」

野菜の形をしてさえいれば、あとは化学調味料、着色料などなど化学合成添加物でなんとかなる。それが一般食品メーカーの正直な想いでしょう。食味よりも使いやすさ、形や重さののそろい、見た目を優先させて農家に要求してきた事実があります。もちろん、農家側もJAなどを通じてそれに応える。F1種ですと、農薬、化学肥料の使用が前提ですので、そこでの収益も期待できる、と。



無農薬、無化学肥料、有機栽培なんてのは、JAの収益減でしかない、というのがあちらの認識だと思います。まあ、当然でしょうけど。


種取農家も高齢化が進み、自家採取の手法も途絶えつつあります。すでに、タネの生産は海外に依存する事態です。混種を避けるために、林業家が兼業でやっていたのが種取農家。山のてっぺんを切り開き、そこに小さな畑を作り、種を取る。半径1kmほどに同様の種があると、混雑の恐れがあるそうです。


もちろん、品種改良、選別、選抜はおこなっていたのでしょうが、現代の品種改良は畑ではなく、研究室で行われています。それは種の限界を超えた、「改良」ではなく「改種」ともいえる作業です。それは、人間の分限を超えた作業である、と思います。



いまならなんとか、なるかも。なるといいなあ。なったらいいなあ。