で、ちょっと葛の話。
大きく二つ。国産かどうか、という話と、その「葛」がほんとうに「葛」なのか?というお話。
まず、現在葛の産地として成り立っているのは、鹿児島。そして宮崎の一部です。
これは、葛の植生に関係があります。葛は、雑木林にしか生えないんですよ。んで、つたの一種ですから木にまきついて枯らします。山師さんが山に入って葛を取るのは、山の地主さんにとってもありがたいことだそうです。
で、植林で杉ばっかりになっちゃって、もう葛が自生しているような山は残り少なくなっちゃってるんです。たとえば富山。宝達葛。昨年2008年の冬のお話です。
http://www.hokkoku.co.jp/_today/H20080123101.htm
◎宝達志水特産、宝達葛ピンチ 頼りの中国産クズ根届かず 今年は生産断念
人工栽培園から掘り出されたクズ根=宝達志水町宝達
「加賀藩御用」として知られる宝達志水町特産の「宝達葛(くず)」が、原材料である クズ根を中国から輸入できず、今年は生産を断念した。宝達葛は、宝達山に自生する天然 クズの減少と、生産者の高齢化でクズ根確保が困難となり、十年ほど前から一部中国産を 使い始めた。年々その割合が増え、昨年はほぼすべて中国産に頼った。輸入不調の背景に は、中国側の穀物輸出規制の影響もあるとみられ、町自慢の特産品も国際情勢と無縁でな くなってきている。
宝達葛は砕いたクズ根を寒の冷たい宝達山系の伏流水に浸したり、布でこす作業を繰り 返して作る。昨年の総生産量は約二百五十キロで、健康ブームに乗って県内外から注文が ある。合併前の一九九九(平成十一)年には旧押水町が地元に宝達葛会館を建設、同館を 拠点に「宝達葛生産友の会」などが特産品を支えてきた。自然食品として脚光を浴びる一方、宝達山系の天然クズは次第に少なくなった。会員の 高齢化が進み、山奥に入ってクズ根を探す作業も難しくなってきたことから、十年ほど前 から中国産クズ根を使い出した。関係者によると、中国政府は今月から穀物の輸出抑制に 乗り出しており、「クズ根が含まれているか分からないが、寒の時期に間に合わなかった 」(生産者の一人)という。
町作成のパンフレットでは「宝達山麓(さんろく)に自生する葛の根から精製された宝 達くず」と記され、二十年以上前から使い続ける商品パッケージには「能登名産 能州寶 達葛」と大書されており、宝達葛の原材料はすべて地元産と思っている人が多いという。
この表示について、県農業安全課によると、日本農林規格(JAS)法では、葛は原材 料の産地を明記する義務はなく、問題はない。生産者も中国産クズ根は質も良く、ミネラ ルが豊富な宝達山の伏流水で伝統的な手法で時間をかけて作るため「宝達葛の品質は変わ らない」と自信を持っている。
一方、正真正銘の宝達葛を作るため、旧押水町は二〇〇一(同十三)年、町内の棚田約 三千三百平方メートルでクズ根の人工栽培に着手した。当初三年ほどで十分な大きさに育 つとされていたが、二十二日に掘り出したクズ根は直径二十センチを超える十分なサイズ は少なく、地元での原材料確保の努力は実を結んでいない。生産者も六十、七十代の五人 しかいない。
現在は在庫に余裕があるため、品不足の心配はないというが、来年以降のクズ根確保の 見通しは立っていない。宝達区長で宝達葛生産友の会の新宮勉さん(71)は「最高の水 と伝統の製法で作る宝達葛を残すため努力したい」と話している。
別に中国産が悪いとはいいませんが、そりゃちょっと違うんじゃない?と思ってしまいます。水や気候が、っちゅうなら中国奥地のほうがよっぽどよかろうて。もっとも、中国人はほとんど食べないそうです。漢方でつかうくらい。「葛根湯」てね。韓国では強壮剤だそうです。根をそのまま万力で搾って、おちょこできゅっといくそうで。市場にいくとありますよー。と。
ちょっと余談なのですが、以前横浜港の輸入ヤードの見学会に参加させていただいたとき、「食べ物を、食べる習慣のないところで作ると、それを食べ物と思わないから、勢い扱いが雑になる」という意見がありました。たとえば「ぜんまい」などの山菜。中国ではほとんど山菜を食べる習慣がないそうです。そういえば中華料理ではみかけませんね。ふきとか。で、中国で作ると、見かけと収穫量優先でつくりますから(商社もそれで値段をつけますし)、勢い扱いは雑になりますね、と。日本人のように職人的な畑作りは期待するほうが間違ってるよ、と。
輸入の状況の話に戻すと、もちろん、植物の根っこですから輸入する間に蒸れてしまいます。でんぷん質はおそらく変質してしまうでしょう。おそらく常温の海洋コンテナでしょうし、検疫もあるので泥もすべて落として、虫一匹ない状態で入ってきます。検疫の方、少ない人数で、ものすごく頑張っておられます。頼むから、もっと予算と人手をかけてくれ、と思うくらいです。おかげで日本では妙な害虫がはびこることも少ないのですが、どうしてもセアカゴケグモなど外来種(=天敵がいないので繁殖したおす)が入ってくるんです。で、FTAなどではこれらの検疫を簡素化しよう(検疫に掛かる時間を短縮して、貿易障壁を低くしよう)としていますが、これはまた別のお話。
じゃあ、現地で半加工しちゃえばいいじゃない、という話なんですが、混ぜ物はしてくるわ、加工の精製度は悪いわで「怖くて扱えない」状況だったそうです。
ので、廣久さんでは鹿児島で仕入れた葛の根を現地工場で鮮度のおちないうちに半加工、秋月で再度精製、製品に加工されているそうです。
また、中国の品種と、日本の品種はちょっと違うようです、と。
台湾葛、支那葛、大和葛、まいっちょなんだけかー。
でもって、まいっちょ。こっからが大事。
同じでんぷん質で、甘藷(さつまいも)でんぷんがあります。じゃがいもでんぷんもあります。コーンスターチ、もっと安いの、となると増粘多糖類(ソルビトールなど)となっていきます。これをどれだけ混ぜるか。そして混ぜた場合の表示はどうなるの?これ、一切規制がありません。ジャガイモでんぷん100%でも「並葛」という名称で販売されています。「本葛」だと、葛が使ってあるそうです。でも、100%とは限らない。「うちのブレンドはこれですよ」と言えば「本葛」と名乗ってOKなんです。醤油の「うま口」みたいなもんですね。いや、あれは醤油なだけ(醤油はJAS法で原材料等に規制があります。それもまた良し悪しがあるんですが)まだまし、といったら失礼ですかね?
もっとも、「片栗粉」がすでにかたくりの根から取れるでんぷんではないように、「葛」も通称なんだ、という意見もありますが、どうなんでしょうね。葛のよいイメージを援用しているだけしか見えません。また、これを知ってか知らずか、問屋の営業トークを真に受けた(ただの勉強不足ですね)だけなのか、混ぜ物をしたほうが味が落ち着きますよ、みたいな。なんなんだアレはw
まあ、こういうことを言っても、消費者以外だれも得しないしね。